手を離された風船の話

さようなら。と打った時、胸が軋む音がした、ような気がした。

一緒に幸せになれなくてごめんね。
今までありがとう。
さようなら。

定型文三行を読み返して、誤字がないことだけを確認して送信した。
煙草に火をつける。
天井を見上げる。
自分の言葉を自分の口から吐き出せない自分。
あの人は網膜に焼付かないし、妄想で形作られたりしない。
だから、今後会わない人の声色も口癖も仕草のひとつも、なにも思い出にはかなわないのだ。

さようならを口にすることは憚られるのに、文字にするとすんなりと伝えられるのは
あの人を本当に想っていないからなのか、想っているからこそなのか、
じりじりと焼けて消えていく煙草の先しか見ていないわたしには
痛みの度合いも周りも現実もわからないでいる。