2017-01-01から1年間の記事一覧

大アルカナ0番

アルバイト先にひとつ年下の子がいて、当時はよく一緒につるんでいた。他は年配の女性ばかりだったし、一番近くても十五歳は離れているものだから、気兼ねなくため口で話したり愚痴を言い合ったりする関係になるのも、自然の流れだったと思う。彼女は金髪で…

魚は天の川を泳ぐ

心臓と皮膚が離れすぎているからいけないのだ。覇気のない店員の挨拶に見送られてコンビニを出た。途端に熱帯夜特有の湿度がまとわりついて、すぐ額に汗が滲んだ気がする。ビニール袋からアイスを取り出す彼女を眺める。ひとつを半分に割るタイプのアイスの…

金木犀

「言葉はしぬほど溢れてるのに今の自分に相応で適確なものがひとつも見つからない。なんて吐き捨てるこの言葉すらどこかの誰かが書いた文章で何度も見たことがあるし、全然目新しくもクソもないでしょ。語尾を変えて配置を変えて表現を変えて捏ね繰り回して…

ポテトサラダの証明

キーボードを打ち続ける作業に疲れて、こっそり背伸びをしてみる。まわりの人にばれないように、悪いことをしているわけじゃないのに、わたしだけサボっていると思われないように。視界に入る先輩たちはそれぞれディスプレイを見つめている。時折せわしなく…