青鬼の差し色

吐き出した言葉が、相手に届く前に一度だけこちらを振り返って、ほんとうにこれでよかったの、と問いかけてくる。その怪訝な、怪奇な雰囲気にはっと正気を取り戻して口元を抑えようとするのだけれど、もう遅い。指先が動くより先に空気に溶けて鼓膜へ消えた彼らをもう呼び戻せない。

 

案の定、さきこはもともと大きな瞳を更に見開いたあと、ふるりとかぶりをふって唇を噛んだ。なんてかしこいんだろうと、わたしはこの状況で感心する。だってわたしの二の舞にならないようにしてるんでしょう。とっさに。無意識に。相手を思いやれるなんてえらいねさきこ。それとも同じ土俵に立ちたくないからなの。わたしはあなたのゆがんだ表情を呆けた顔で見つめている自覚がある。こんなにきれいでこんなにやさしいあなたの、丁寧にひかれたコーラルピンクの口紅の奥で、わたしを罵倒するような言葉たちが出口を求めて渦巻いているのかと思うと、しょうじき高揚する。